サッカーの「ケガの予防・応急処置」など、メディカルに関する情報をお届けします

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MEDICAL REPORT
メディカルレポート
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サッカー日本代表メディカルスタッフの一員としてチームを支えているチーフアスレティックトレーナー前田弘さん、
トレーナー菊島良介さんにコンディショニングについてお聞きした。

活躍する選手に共通すること

コンディショニングについて、活躍するサッカー選手に共通するところがありましたら、お聞かせください。

前田サッカー日本代表というチームは、ケガの少ない選手が生き残っていきますから、コンディションの調整が上手に出来る人、要するにセルフケアとセルフコンディショニングの重要性を理解して、実行している人が最後までチームに残れるのではないかと思います。

菊島向上心を持って、継続して努力し続ける選手がトップに残っていますし、共通しているのではないかと思います。

コンディショニングの観点から改めてお聞きします。ウォーミングアップは何のために行っているのでしょうか。

前田ウォーミングアップは、ケガをしないための準備段階です。寒い日には身体を温めるためにしっかりと準備します。ダイナミックな動きで単に温めるだけでなく、関節をきちんと曲げ伸ばしするような細かい動きづくりも最近では行っています。昔はゲーム中に起こり得る心拍数まで上げて、といったことを行っていました。現在は、この部分はフィジカルコーチが担当しています。

菊島私たち、アスレティックトレーナーとフィジカルコーチは分業しております。モビリティ(可動域)を出して、スタビリティ(安定性)を出すことで、動きやすくなるようであれば、それをフィジカルコーチに伝えることがあります。基本的な動きからサッカーの動きまで組み立てていくようなパフォーマンスを出すための準備をしている感じです。事前にレクチャーしていますので、試合前には自分で行ってもらいます。

試合前には、選手が自分自身でやるべきこと、動作をしているのですね。

菊島はい。中にはボールを蹴っているだけの選手もいますが、選手はそれぞれ自分で選んで必要なことを行っています。

一方、一般的な大学サッカーにおいては「この4年間にすべてを懸ける」という選手も少なくありません。程度の軽いケガなら“隠しながらプレーする”ということを選択し、プレーし続けることを優先的に考える選手もいます。激しいレギュラー争いがあることを考えれば仕方のないことですが、そこに関わるドクターとしては、そういった選手たちとどのように向き合うかがとても難しいと言えると思います。

練習後や試合後のダウンについては、どのようなことをしていますか

前田アイスバス(13℃くらいの氷水に身体をつける)や、グラウンドではゆっくりと走りながら身体をクールダウンしていきます。ケガの既往歴があれば(過去にケガをしたことがある場合)、アイシングをすることもあります。そのようなサポートを私たちが手伝ったりします。
 また、炭水化物やタンパク質を含む簡易的な食べ物を用意して、疲労回復を早めるような食事をロッカールームや宿舎で摂らせたりします。おにぎりや羊羹(ようかん)、干し芋などです。
 このほか、クライオセラピーという、マイナス100何℃という低温によって回復を促すといった方法などもあります。リカバリーという観点で、翌日に疲労を残さないようにするという考えです。

リカバリー出来ているかを確認する方法

リカバリーが上手くいったかどうか、どのようにしたら分かるのでしょうか。

前田VASテスト(注:ある一定の長さの中で、どのあたりかを示すことで、例えば疲労度がどのくらいかを伝えることが出来る。VASとはVisual Analog Scaleの略)を用いて選手の疲労度を自己申告してもらったり、ドクター(医師)が血液検査をすることで、把握するようにしています。

選手に何か伝えていることはありますか。

菊島例えばアイスバスでも、行っている目的や意味を伝えると、やらされている感じにはなりません。オレンジジュースと飲むヨーグルトが並んでいたら、どちらを飲んだら良いのか、目的によって異なります。自チームに帰ったら自分で行わないといけません。
 先ほどの数値も、ベースの数値があれば、外れてきたらどんな意味があるかを考えるために日々測っているのです。「同じなら測らなくていいのではないか」と選手は言うのですが、理解して、納得してもらえるように日々伝えています。

前田数値でなくても、ピッチ上で動きが良くないなと思うことはあります。また、私たちはチームで朝食を摂るのですが、なんとなく顔色が良くない選手はいます。体調を報告する機会が、VASテストになりますので、その数値をみて、どうするかを考えます。試合が終わって興奮して眠れなかったり、移動による時差、疲労などもあります。

セルフコンディショニングとして出来ること

セルフコンディショニング入門として、例えば小学生から出来ることはありますでしょうか。

前田わざわざ新しいものを買う必要はないと思います。お風呂に入ってしっかりダウンする、交代浴(温かいお湯につかって、冷たいシャワーを浴びる、それを繰り返す)、ストレッチングなどはやって当たり前のところです。意識のある子は日常の中でセルフコンディショニングが出来ると思います。そして三食、栄養のあるものをバランスよく食べてほしいです。今はインターネットで検索して出てきます。私たちとしては、正しい方法で行ってほしいです。年代に合わせたトレーニングの重要性、ケアの重要性を頭に入れて行っていただきたいです。
 無理をして膝が痛いのにボールを蹴ったりという選手はたくさんいます。昔なら美談だったかもしれませんが、子どもを守るために正しい知識を知ってほしいです。夏休みにJFAミュージアムで教えたりといったことも行っています。

多少痛みがあってもプレー出来てしまうことがあると思います。こういう状況が一番難しいのではないでしょうか。本人もやりたいと思うでしょうから。勇気を持って休まないといけない。

前田そうですね。そこを止められるのが周りにいる親であり、指導者といった大人の役割です。無理してやると長引いてしまいます。プロの選手でも、膝の下が出っ張っていることがあります。オスグッド・シュラッター病というものです。そういう痛みを抱えてプレーするのと、痛みがない状態でプレーするのでは、変わってくるはずです。

今を見て、そこでよいのか、将来的にどこまで伸びるかを制限してしまうかもしれないという観点で、無理せず休もうというのは有効かもしれません。どこまで自分を信じるかにもなりますが。

前田難しいです。休んでくれと言っても休んでくれる選手も、親もなかなかいません。ただ、正しい知識である程度理解したうえでプレーすることが大切だと思います。
 体幹トレーニングをみても、小学生が行っているのを見ると、ブルブル震えながら我慢大会のようになったりします。それだったら短い時間で、姿勢を保てる範囲で行うのが良いでしょう。指導者はきちんと理解して行うべきです。

菊島同じ学年でも成長段階はバラバラです。なぜその痛みが生じるのかを理解していれば、無理をさせないという考えにもなると思います。先をみて、成長の時期が過ぎれば負荷をかけられると理解していれば、成長の途中で負荷をかけすぎることもないと思います。

当たり前のことが出来る

セルフコンディショニングがちゃんと出来ることと、スポーツに限らず生きていく中で必要な力というのは関連しているように思っているのですが、どのように感じていらっしゃいますか。

前田私も同感です。サッカー選手が全員プロになれるわけではありません。サッカーだけでなく、社会人としてやっていける教育を受けてほしいと思っています。息子もサッカーをしてきましたが、勉強をもっとしておけば良かったと言っています。高校では勝つサッカーをしないと生徒も集まってこないというのはあるかもしれませんが、親としては社会で通用するような人間性について教育してもらったほうが良いと思います。
 サッカーの代表チームでは、ある選手は私たちスタッフの言うことを一言も聞かなかったのですが、何年か経つうちに、人としての成長があったからこそ、代表に残っています。「よくありがとうって言えるようになったな」と冗談で言ったりします。色々な人に支えられてプレーしているということを理解しているのですね。
 オフザピッチの重要性についても、サッカー協会では言われています。そういうセルフコンディショニングを含めて、自分のことは自分で出来る選手が増えてきている印象です。勘違いして何もやらない選手はこれから先が心配です。

菊島代表チームだからこそ取り組みやすいことがあったりします。がむしゃらに取組まないといけないこともあります。そこに、メディカルの立場から、身体と向き合って行うことを含め、身の回りのことをちゃんとやると、先につながってきます。A代表から、アンダーカテゴリー、育成の選手たちに伝わっていきます。

セルフコンディショニングは、やって当たり前、となっているのですね。

菊島トップの選手たちが当たり前にやっているので、若い選手も、これが当たり前なんだという空気になっています。

前田これは先輩方が教育してきた成果で、前任者を含め、嫌われ役になるほど言い続けてきて、それで日本のチームは変わってきました。

チェックをしてセルフコンディショニング

セルフコンディショニングのためのチェック方法がありましたらご紹介ください。例えば股関節でいかがでしょうか。

菊島例えばベッドの端に横たわり、太ももから先が、下に下がるようなところで片方の股関節をお腹につけるように曲げます。もう片方は下に下がりますが、股関節が固くなっているとあまり下に行かないのです(写真参照)。これは私たちスタッフがチェックする方法です。
 そのような場合には、股関節の前のほうを伸ばすようなストレッチングを行ったり、逆にお尻のほうの筋肉に刺激を入れたりして、股関節の可動域を改善するということをセルフコンディショニングで行います。

前田このようなチェックを、私たちは練習開始の1時間前に行います。でも、選手はその1時間前、練習の2時間前にきて準備をしています。かなり意識が高いのです。

他にセルフチェックとしてどのようなことがありますか。

前田立位体前屈もいいと思います。膝を曲げずに地面に手がつくか、チェックします。これは腰ではなくて、身体の後側をみていきます。結果が出ると嬉しいですから、小学生にはそのようなことを教えたりします。
 私たちも機会があるたびに伝えていますし、指導者資格でも学ぶ機会があります。指導者は理解しないといけません。熱中症になったらどうするかなど、命を守ることも含めて、親と指導者、大人に責任があります。

サッカーを続けるうえで、小学生、中学生、高校生、大学生、社会人、シニアというように世代ごとに何がポイントになるでしょうか。

前田大きく分けると成長期と、成長を終えて充実してやれる期間、そこからシニアに入ってくると思いますが、成長期はトレーニングを無理して行う必要はなく、骨の成長が止まっていれば積極的に筋力トレーニングを行ってよいと思います。それまでは自重で行うなど負荷をかけないような方法が奨められます。筋力もないのに遠くへ飛ばそうとするというのは必要のないトレーニングになると思います。中学は持久系が伸びる時期など、成長曲線に合った練習を行っていくのが良いと思います。シニアでは、アキレス腱を切ったりしますから、やはり自分に合ったことを歳相応に適度なことを行うのが良いと思います。

小さな子どもたちを持つ親にとって、気をつけるポイントがありましたら、教えてください。

前田発達段階を踏まえて、親としてアプローチすることで、やれることはあります。時期に合わせて行うことがケガの予防にも重要です。

中には、ボールを蹴るのが好きで、安静にするのが難しく、親が言っても蹴ってしまう子がいるそうです。

前田そのへんは私たちの役割かもしれません。このような立場で代表選手と関わっている人間が「大変なことになるよ」と伝えることです。ある選手は腰椎分離症で、練習を休むように言ってもなかなか休まなかったのですが、ドクターが厳しく伝えたことでようやく休み、最終的に復帰して活躍しました。
 あとは、まずスポーツの専門医に診てもらうことです。ちゃんと診察や検査をしてもらい、診断をしてもらうことです。それが安心につながります。

前田 弘(まえだ・ひろし)

ガンバ大阪、ジェフユナイテッド市原・千葉を経て、2007年から日本代表チーフアスレティックトレーナーとしてFIFAワールドカップに3回帯同

菊島良介(きくしま・りょうすけ)

東京電力女子サッカー部マリーゼ、ジェフユナイテッド市原・千葉を経て、2011年から日本代表アスレチックトレーナーとしてFIFAワールドカップに2回帯同

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