サッカーの「ケガの予防・応急処置」など、メディカルに関する情報をお届けします

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MEDICAL REPORT
メディカルレポート
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コミュニケーションとプレーヤーズファースト

奈良リハビリテーション病院で院長・理事長を務める増田研一先生は、Fリーグのシュライカー大阪でチームドクターを務めるなど、
多くの選手と関わりながら治療に従事してきた。ケガをした選手に対して、ドクターやトレーナー、
あるいは選手自身はどのように考え、対処するべきなのか。増田先生に聞いた。

選手の立場によってケガの意味は異なる

増田先生はスポーツの現場に広く携わられていますが、ご自身も学生時代はプレーヤーだったとお聞きしました。

増田学生時代は昭和44年に創設された枚方FCというクラブチームに所属していました。高校生の頃にクラブチームの全国大会(日本クラブユースサッカー選手権 U-18)で3位になったのですが、私自身、選手としてはたいしたことがなくて(笑)。その後は枚方FCでコーチ、監督を経験させていただき、医者としてサッカーにかかわるという目標を持ちました。

現在は医療法人仁誠会 奈良リハビリテーション病院の院長・理事長を勤めながら、関西サッカー協会の医学委員長(理事)、大阪府サッカー協会のスポーツ医学副委員長、全日本大学サッカー連盟の医事副委員長など主にサッカー界でさまざまな役職に就いておられます。

増田サッカーが大好きなので、環境には本当に恵まれていると思います。フットサルのトップリーグ「Fリーグ」に所属するシュライカー大阪ではチームドクターを務めさせていただいており、今年3月には日本高校選抜のチームドクターとしてドイツ遠征に帯同させていただきました。高校サッカー、大学サッカー、フットサルのトップリーグと環境によって関わり方は異なりますが、各年代のトッププレーヤーと接することで見えてくることもたくさんあります。

例えば、どのような違いがあるのでしょう?

増田サッカー界の育成は“部活”と“クラブチーム”に分かれており、一般的にはレベルの高い選手ほどクラブチームでプレーする傾向にあります。ただ、日本高校選抜に帯同してみて、選手たちの意識の高さに驚きました。彼らの中にはプロになることを目標としている選手も多い。したがって“自分の身体”についてよく知っている選手が多く、ケガの予防においても自発的に取り組んでいる選手ばかりでした。

一方、一般的な大学サッカーにおいては「この4年間にすべてを懸ける」という選手も少なくありません。程度の軽いケガなら“隠しながらプレーする”ということを選択し、プレーし続けることを優先的に考える選手もいます。激しいレギュラー争いがあることを考えれば仕方のないことですが、そこに関わるドクターとしては、そういった選手たちとどのように向き合うかがとても難しいと言えると思います。

Fリーグ・シュライカー大阪の選手となると、また違った考え方もあるのではないかと思います。

増田特に、プロ契約している外国籍選手ですね。例えば、試合中にケガをして、その状態から「休んだほうがいい」と伝える。でも、シュライカー大阪にやってくるブラジル人選手の多くは、多少の痛みなら、我慢して試合に出ようとするんです。なぜかと聞くと、「チームと契約した身として、簡単に休むわけにはいかない」と。もちろんプロ選手だからこその判断ですが、チームドクターとしては判断が難しいところです。

大切なのは選手自身が考えること

ケガをしてしまった場合の処置については、どのようなことを考えておけば良いでしょうか?

増田まずはやはり、ドクターやトレーナーと相談しながら「RICE処置(安静/冷却/圧迫/拳上)」を徹底してほしいと思います。ただし、私が最も重要であると思うのは「自分自身で考えること」です。ケガの部位や程度以外にも、練習なのか、試合なのか、リーグ戦なのか、トーナメントなのか、あるいは前半か後半か。もっと細かく言えば、勝っているのか負けているのかによっても、状況は変わります。

かつてサッカー日本代表の監督を務めたフィリップ・トルシエさんは、実はフランスで理学療法士の免許を取得したと伺った事があります。ちゃんとした医学的知識をお持ちの上で、日本代表の試合などでケガをした選手に対して、メディカルスタッフ単独で「プレーできるかどうか」をその場で判断することを嫌ったそうです。なぜなら、国を代表してピッチに立っているのに、試合の結果や経過はもちろん、ベンチに交代選手がいるのかといった状況の考慮も無しにメディカルスタッフのみの医学的見地のみで判断を下すのはおかしいからというご意向だと。私自身は、その考え方に賛成しています。

だからこそ、選手自身が「そのケガにどういう意味があるのか」を考え、理解することが大切であると。

増田はい。ですから、ドクターに求められるのは、積極的にコミュニケーションを取り、しっかりとした信頼関係を築くことだと思っています。役割として理想的と言えるのは、たとえ選手や監督にプレー続行の意向があっても「増田が言っているなら仕方がない」という決断に至ること。それこそが信頼関係であり、判断を任されるからこそいろいろなことを総合的に考えなければなりません。そうした意味において、チームドクターの仕事は医学的見地だけでは成り立たないというのが私の考え方です。

ケガに対して正しい対処をするためにも、密なコミュニケーションによって信頼関係を築くことが大事ということですね。

増田そのとおりです。プレー中にケガをした場合、まずは正しいグレーディングをすることがとても大切です。ただ、痛みや症状には個人差がありますから、その場で正しい判断を下すのは簡単ではありません。

私の場合は、ハンディタイプのエコーを常に携帯しています。「痛みはそれほどない」あるいは「試合に出たい」という気持ちを持っている選手に対して、『百聞は一見にしかず』エコーで確認する画像には説得力がありますよね。そういったものを使ってコミュニケーションを取ることで、大きなケガを避けられるという側面はあると思います。

日頃からコミュニケーションを重ねることで、“痛みの感じ方における個人差”も把握できる気がします。

増田そう思います。接する時間が長いほど、その選手の身体的な特徴だけでなく、性格的な特徴を把握できるようになりますよね。中には少し大げさに痛みを表現する選手もいるし、逆に痛みに対して鈍感な選手もいる。そういった特徴を把握していれば、ケガをした時の対処、あるいはリハビリの取り組み方にも反映することができるでしょう。

ただ、学生スポーツの現場では、チームドクターが常に帯同しているケースのほうが圧倒的に少ない。だからこそ、選手はもちろん、大学サッカーなら学生トレーナーなどのスタッフの意識の高さが大切だと思います。そうした意味において、私が携わっている関西大学サッカーはとても意識レベルが高いと思いますよ。自分のチームでどのような治療を受けているか、ケガの状態がどのように変化しているかなどを自分たちで記録し、試合の際に会場を担当するドクターに相談するといったケースが増えています。会場ドクターの手配も非常にスムーズで、例えば台風などの影響でスケジュールや会場が変更になっても、自ら進んで手配しようとする。そのあたりは素晴らしいと思います。

次の目標は選手データのクラウド管理

いただいたデータ(2017年度・関西学生サッカー連盟公式戦傷害報告書)によると、5試合に1件弱の頻度で会場ドクターが対応する傷害事例が起きているそうですね。

増田ほぼ例年どおりの数字です。受傷部位として多いのは「顔面・頭部」ですが、これは最近、脳震盪に対する注意喚起が重点的に行われているので、その影響によるものであると考えています。続いて「膝関節」が多いのも例年どおりですね。治療内容としては1位がアイシング、2位がテーピングとなっていますが、テーピングについては、学生トレーナーと一緒に会場ドクターのもとを訪れ、“巻き方”について相談するケースも含まれています。

そうして知識を得ることで、「予防」の意識も高まる。

増田そのとおりです。テーピングは「予防」という意味において一定の効果を発揮してくれるでしょう。「我慢させる」という意味ではなく、力を発揮するために、考えて予防する。もちろん、予防の意識は選手だけでなく指導者やトレーナー、あるいは親御さんも持つべきであると考えています。ケガをしないことに越したことはありませんから、できる範囲で予防する。そうした意識がコミュニケーションにつながるし、大きなケガを起こさないための意識が変わる気がしています。

お話を聞いていると、増田先生が“プレーヤーの気持ち”を最優先に考えていることが伝わってきます。

増田いろいろな年代、いろいろなレベル、いろいろな立場の選手たちと触れ合ってきて、ドクターとしての正解も千差万別であることがわかってきたのだと思います。私は何歳になっても現場にいたいし、プレーヤーの夢を広げる活動をしたい。そうした意味において、関西医療大学勤務時代にグラウンドを作り、地域で活動する多くのサッカー少年・少女に利用してもらえたことを嬉しく思っています。現在の日本代表に名を連ねている南野拓実選手(レッドブル・ザルツブルク)・室屋成選手(FC東京)も、小さい頃はこのグラウンドでプレーしていました。

現在の夢は、J-GREEN堺(堺市立サッカー・ナショナルトレーニングセンター/大阪府堺市)にメディカルセンターを作ることです。関西のサッカー少年・少女たちからトップクラスのアスリートまでが集結するあの場所を、選手たちのケガに関するデータ、あるいはフィジカルテストのデータをクラウド管理する前線基地にしたい。そう考えています。

それが実現すれば、「生涯スポーツ」であるサッカーの魅力がまた一つ増えますね。

増田ケガを予防し、適切に対応し、治療するためには、選手個々のデータをしっかりと管理することが必要であると考えています。時代に合ったニーズであると考えているので、いつかぜひ、実現させたいと考えています。

Profile

増田研一(ますだ・けんいち)
1962年6月生まれ、大阪府出身。医療法人仁誠会 奈良リハビリテーション病院 院長・理事長。関西サッカー協会医学委員長(理事)、大阪府サッカー協会スポーツ医学副委員長、全日本大学サッカー連盟医事副委員長、関西学生サッカー連盟医事委員長(理事)、Fリーグ・シュライカー大阪チームドクター。
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