ニチバンは JFA ソーシャルバリューパートナー/コンペティションパートナーです。

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サッカーの「ケガの予防・応急処置」など、メディカルに関する情報をお届けします

サッカー
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MEDICAL REPORT
メディカルレポート
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育成年代のトレーナーが考える
「子どもたちの自立」と
「テーピングの使い方」

日本サッカー協会が運営する中学・高校生を対象としたエリート教育機関「JFAアカデミー福島」。
全国から選抜された育成年代のエリートが集う環境では、選手たちのケガの対応や予防について、
どのような取り組みが行われているのか。チーフトレーナーとして男女すべての年代別カテゴリーを統括する安藤貴之さん、
女子チームのトレーナーを務める檜山里美さんに話を聞いた。

“なんでもないケガ”に見る子どもたちの特徴

世界的に知名度を誇るフランスのエリート養成機関「クレールフォンテーヌ国立研究所」をモデルとするJFAアカデミー福島は、福島県Jヴィレッジを拠点として2006年に発足。専用の施設を利用したロジング(寄宿制)による総合的な人材育成、地元公立校との連携型中高一貫教育、さらにJFA独自プログラムによる教育や社会活動など多角的なサポートを通じ、未来のプロサッカー選手を育成することを目的としている。

育成年代トップレベルの選手が集うこの環境で、トレーナーはどのような役割を果たし、どのような姿勢で子どもたちと接しているのか。まずは「近年における育成年代のケガの特徴」について、チーフトレーナーの安藤さんは少し心配そうにこう話した。

「強く感じているのは、“なんでもないケガ”がとても多いことです。これは一般的にも言われていますが、近年は時代背景的な影響もあり、幼少期に屋内で遊ぶ子どもたちが増えています。つまり、自然と戯れるような遊びの経験が極端に少なくなっている。その影響はとても顕著で、例えば、わずかな段差につまずいて転んだり、受け身を取れずに頭を打ってしまう子どもが増えていると感じています」

確かに一般論としてよく耳にする話は、“エリート”が集まるJFAアカデミーも例外なく該当するという。ひと昔前と比較して、近年は人工芝などの整備された環境が急速に増えている。しかしこのような環境は、プレーの快適性を高める一方で、選手やトレーナーにとって難しい課題を浮き彫りにする。

「日常の遊びの中から身体能力を発達させるような刺激は、私たちが子どもの頃と比較して著しく不足しています。それに伴って環境への適応能力は低下している気がしますし、ケガも増えている。例えば、肉離れなどの筋肉系のケガは一昔前まで頻繁には起こり得なかったものです」

そうした傾向は、もちろん女子にも共通する。女子チームトレーナーの檜山さんが言う。

「ウォーミングアップのメニューのひとつとして前転や側転をやらせてみるのですが、JFAアカデミー福島でプレーする子どもたちは“選ばれた選手”であるにもかかわらず、まともな側転ができない子も少なくありません。基本的な運動能力の低下は、やはり大きなケガを誘発する原因のひとつになりかねません」

昨年まで鹿島アントラーズのトレーナーとして“トッププロ”を間近に見てきた安藤さんは、まさにその点を懸念しているという。

「今の子どもたちは、ケガの耐性がかなり低い。『痛い』『歩けない』とすぐに口にしてしまう選手は、現場の実感としてはかなり増えています。でも、プロの世界では“サッカーのうまさ”だけでなく、“人間としての強さ”がなければ生き残れない。ケガと向き合いながら、そうした部分のケアをすることも、トレーナーの仕事ではないかと考えています」

応急処置の大原則は“PRICE”

環境が整っているからこそ、ケガなどの問題に直面した時に答えのすべてを提供するのではなく、まずは自立を促すよう心がける。トレーナーにとって大切なのは「“今”の子どもたちの特徴を考慮して接すること」であると檜山さんは言う。

「基本的には、セルフケア、セルフコンディショニングという考え方を持っています。JFAアカデミー福島には私たちのような専門家が常駐していますが、それが当たり前ではありません。私たちの存在に頼り切りになってしまうと、ひとりの社会人としてここを出た時に苦労してしまうので。テーピングなどの医療用品が準備されていることも、アイシング用の氷をもらうことも“当たり前”ではありません。ここに来る子どもたちは小学校を卒業してすぐに寮に入るので、“その後”のことを考えた対応を意識しています」

ケガに対する処置は基本に忠実だ。安藤さんが説明する。

「一般的にはRICEですが、ここJFAアカデミー福島の応急処置の大原則は“PRICE”です(Protection[保護]、Rest[安静]、Ice(冷却)、Compression[圧迫]、Elevation[挙上])。私たちは中学1年生から“PRICE”について説明し、指導しています。その後は、必要に応じて医師の診断を受け、それに基づいて復帰までの道筋を考える。ケガの具体的な状況やその後の対応については、子どもたちにしっかりと説明するように心掛けています。

基本原則である“PRICE”を徹底し、医師の診断を仰いで復帰までの道筋を立てる。患部の機能的な障害、筋力や可動域、感覚を回復させ、復帰に際して“サポート”が必要であれば、その際にテーピングを使う。

「身体的な機能が落ちている状態で、テーピングを巻いて復帰させるという考え方はありません。その段階で無理をしてしまうと、2次的、3次的なケガにつながってしまう可能性がある。成長期だからこそ、慎重でなければなりません。その判断がとても大切なので、トレーナー(トレーナー不在の環境では現場スタッフ)の傷害確認だけでなく、必ず医師の診察を受け、経過を確認してもらうのと同時に医師の指示に従って取り組みを継続していく。育成年代のケガにおいては、この部分が最も大事であると考えています」

テーピングは自立を促す手段のひとつ

足首の「フィギュアエイト」やカカトの「ヒールロック」に際して、サポートの意味で主に使うのは固定するタイプの“ホワイト”ではなく、主に伸びるタイプのテーピングだ。子どもたちにも巻き方を指導し、最終的には自分で巻けるようになることを理想とする。ケガの状態やテーピングの巻き方を子どもたちに説明し、指導するのは、「“教育”という観点から必要である」と考えている。安藤さんが言う。

「子どもたちに“自分から何かをする”という気持ちを持ってもらうことも、とても大切であると考えているんです。『テーピングを巻けば大丈夫』という感覚を持ちすぎてしまうと、『ケガをしないためにどうすればいいか』を考えなくなってしまう。あらゆる状況に対して『自分で考え対処する』という気持ちを持ってもらうことで、自分自身の身体のことを理解するようになると考えています」

つまり、テーピングは子どもたちの自立を促す手段のひとつでもある。

「受傷から復帰まで、その状態や選手によっていろいろな手段がありますよね。アイシングの程度や、チューブを使った筋力トレーニング、もちろんテーピングもそのひとつ。それらをどのようにアレンジし、ピックアップして最終的な目標に向かうか。それを子どもたちと一緒に考えることは、自立を促すための手段にもなり得ると思うのです。私たちの仕事は、すぐに明確な答えを与えてしまうのではなく、あくまで導くこと。そこにこの仕事の難しさや、経験として蓄積されるものがあると思うのです」

子どもたちの自立を促すという意味においては、JFAアカデミー福島には大きな利点がある。檜山さんが言う。

「ここには中学1年生から高校3年生までの子どもたちが一緒に生活しているので、その基盤を子どもたち自身が作り、それを彼ら自身で伝えていくという環境があります。それはとてもポジティブなことで、例えば、メディカルルームやトレーニングルームにおいても、“やり方”や“使い方”を高校生が中学生に教えてくれる。または、高校生の取り組みを見て、中学生が真似をする。私たちも、子どもたち自身が自発的に学べる環境を作りたいと考えています」

※JFAアカデミーでは、セラポアテープFX、テーピングテープELを使用しています。

トレーナーに求められる“見極める力”

最後に、育成年代を指導する全国のトレーナーに向けて、2人からメッセージをいただいた。安藤さんは「見極める力」の重要性を口にした。

「トレーナーといってもいろいろなタイプがいますし、100人の子どもたちすべてに対応できるわけではありません。だからこそ、大切なのは見極める力。子どもたちの『痛い』という言葉が、どの程度のもので、どのような状態を意味しているのか。その言葉の奥にある症状を的確に把握し必要な処置を”教育・指導する立場”で関わることが大切です。怪我に対して消極的になるのではなく積極的な取組みが後押しできる環境作りが育成世代の現場には必要なように感じます。」

檜山さんは女子選手の特徴について触れ、こう話した。

「繰り返しになりますが、まずは育成年代だからこそ『自分でできることは自分で』というスタンスを持たせること。トレーナーがいない環境でも、選手はいろいろな事に適応し、自分自身で答えを出さなければならない場合も多くあります。だからこそ、ここでは医師の診断を仰ぎ、選手自身もケガについて理解した上で、一緒に対応を考えることを重要視しています。また、女子選手の場合は、身体が女性へと大きく変化する時期でもあります。もしトレーナーや指導者が男性でも、『男子と女子は大きく違う』ということを理解してほしいですね。それによって、ケガの対応や日々のパフィーマンスの変化も、より理解が深まると思いますから」

社会的な時代背景の変化はサッカーに熱中する育成年代のプレー環境の変化を促し、それに伴い、トレーナーとしての役割も変化しつつある。しかし、“子どもたちと向き合う”という本質的な部分は変わらない。育成年代のトップレベルを間近に体感している2人の言葉には、サッカー界の未来を作る上でとても大きなヒントが含まれている。

【プロフィール】
JFAアカデミー福島
発足以来、男女とも各世代別代表選手やプロ(トップリーグ)選手を数多く輩出。東日本大震災後の2011年4月からは活動拠点を福島県Jヴィレッジから時之栖スポーツセンター(静岡県御殿場市)に一時移転している。2015年8月から女子は帝人アカデミー富士(静岡県裾野市)に再移転し、2017年度はU-13からU-18まで男女計123名が在籍している。

安藤貴之(あんどう たかゆき)

JFAアカデミー福島 フィジオセラピスト。2016年から現職で、以前は理学療法士として鹿島アントラーズに13年間勤務。裏方のひとりとしてその黄金時代を支えてきた。

檜山里美(ひやま さとみ)

JFAアカデミー福島 女子アスレティックトレーナー。前職は病院で理学療法士を務める傍ら、女子高校サッカーチームのトレーナーとして10年以上の経験を持つ。自身もサッカー経験者。

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